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大阪高等裁判所 昭和37年(ラ)33号 決定 1965年10月12日

抗告人 南古亀治

相手方 枝松鶴一

主文

原決定をつぎのとおり変更する。

頭書の事件に関し、相手方が支出した訴訟費用について、抗告人の負担すべき額は金四万二、八一二円、相手方の負担すべき額は金一万〇、七〇三円と確定する。

相手方の申立中右額を超過する部分はこれを棄却する。

抗告費用は相手方の負担とする。

理由

抗告人は、「原決定のうち宿泊料に関するものを全部取消す。」との裁判を求め、その理由として、「宿泊せずとも日がえりで裁判所へ出頭でき得るにより右決定は失当であると思料するが故にここに抗告致します。」と主張した。これに対する当裁判所の判断はつぎのとおりである。

記録によつて調査するに、

(一)  抗告人は相手方を被告として神戸地方裁判所社支部に対して売掛代金請求訴訟を提起し、右事件は同裁判所支部昭和三一年(ワ)第一〇号として係属し、審理の結果、昭和三二年一一月二八日原告(抗告人)敗訴の判決言渡があり、抗告人から大阪高等裁判所に控訴し、同事件は同高等裁判所昭和三二年(ネ)第一、四七六号売掛代金請求控訴事件として繋属し、昭和三五年七月二八日「本件控訴を棄却する。控訴人の第一次予備的請求を棄却する。控訴人の第二次予備的請求について、被控訴人は控訴人に対し金五九、五五八円およびこれに対する昭和三一年二月一〇日以降支払ずみにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。控訴人の第二次予備的請求中その余の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審を通じ五分し、その一を被控訴人、その四を控訴人の各負担とする。」旨の判決言渡があり、その後、右判決はこれに対する上告なく確定したこと、

(二)  その後昭和三六年一一月二日第一審裁判所である神戸地方裁判所社支部に対し相手方から訴訟費用額確定の申立があつたので、同裁判所は抗告人に対して民訴法第一〇一条所定の催告をしたが、抗告人から催告された書面の提出等がなかつたので、相手方の費用のみについて訴訟費用額の確定決定をしたところ、これに対して抗告人から本件の抗告があつたものであること、

(三)  原決定中宿泊料に関する部分は、第一審の費用としては被告(相手方)本人が口頭弁論期日に出頭のために宿泊した宿泊料毎回七五〇円宛一一回合計八、二五〇円並びに第二審の費用としては、被控訴人(相手方)本人が口頭弁論期日出頭のため宿泊した宿泊料毎回金一、五〇〇円宛一一回合計金一六、五〇〇円及び証人浜口敞弘に支払つた宿泊料一回分が含まれていること、

(四)  相手方は岡山市原尾島に住所を有する者であつて、本件が第一審神戸地方裁判所社支部で審理されている間に、同支部で開かれた公判期日に、午前一〇時の期日には昭和三一年三月一四日、同年五月一〇日及び同年一二月二五日の三回、午後一時の期日には昭和三二年二月一九日、同年三月一四日、同年四月二五日、同年六月四日、同年七月四日、同年八月二二日、同年九月二四日及び同年一〇月三一日の八回出頭し、第二審大阪高等裁判所で審理されている間に、同裁判所で開かれた口頭弁論期日に一一回出頭し、ほかに証人浜口敞弘の宿泊料一回を支払つていること、

を認めることができる。

岡山市内に住所を有する者が大阪高等裁判所における口頭弁論期日に当事者として出頭するために大阪市内又はその近郊に宿泊した宿泊料は、岡山市から大阪市までの距離及びその間の旅行に要する時間にかんがみて、訴訟費用額確定の際に訴訟の遂行上必要な費用として訴訟費用額中に当然計上することができる。そして、別段の疎明がない限り、右当事者は右期日出頭のため大阪市内又はその近郊に宿泊したものと推定される。また、第二審における証人の宿泊料は裁判所が相手方にその支払を命じたものであるから、当然訴訟費用となる。よつて、本件の第二審における宿泊料に関する抗告人の主張はすべて理由がない。

そこで、本件第一審神戸地方裁判所社支部における口頭弁論期日に出頭するため、相手方が右裁判所に近いところで宿泊した場合に、右宿泊料を訴訟費用額中に計上することができるかどうかについて判断する。相手方の住所岡山市原尾島から神戸地方裁判所社支部までの旅行に要する時間は、当裁判所が国鉄のダイヤグラフ、バス会社への問合せ等で調査したところによれば、原尾島から国鉄岡山駅まで乗合自動車で所要時間一七分乃至二〇分、国鉄岡山駅から同加古川駅まで山陽線上り直通普通列車で所要時間二時間一〇分乃至二時間五一分、同加古川駅から同滝野駅まで加古川線で所要時間四八分乃至五七分、滝野駅から社まで乗合自動車で所要時間約一〇分であつて、各乗替えのために要する時間を五分宛とすれば、最も早い汽車及び自動車が最も好都合に連絡していると仮定しても、原尾島から神戸地方裁判所社支部まで三時間四〇分を要する。したがつて、相手方が右社支部における午前一〇時の口頭弁論期日に間に合うようにするためには、相手方は右午前一〇時から逆算して少くとも午前六時二〇分には原尾島の自宅を出発しなければならない計算になる。右時刻には原尾島発岡山駅行の乗合自動車の始発は未だ発車しなかつたと思われるので、相手方は自転車又は徒歩で岡山駅に向う外なく、そのために増加する所要時間を二〇分とすれば、相手方は午前六時頃に自宅を出発するを要することになる。

訴訟当事者が午前中に指定せられた口頭弁論期日又は証拠調期日に遅れないように出頭するためには、自宅を午前六時頃出発することを要し、午前七時頃出発したのでは到底右期日に間に合うように出頭することができないときは、その当事者が期日の当日早朝自宅を出発して期日に間に合うように出頭することが不可能でない場合においても、その当事者にはこのような苦痛を忍受しなければならない信義則上の義務はない。したがつて、このような場合に、右当事者が期日の開かれる場所近くに宿泊したときは、右宿泊料は訴訟を遂行するについて必要であつた費用として、訴訟費用額確定に際しその額中に計上することができる。そして、このような場合には、右のような当事者は期日の開かれる場所近くに宿泊するのが普通であるから、別段の疎明がない限り、その期日に出頭した右のような当事者は右宿泊をしたものと推定することができる。

本件の場合、相手方は第一審の神戸地方裁判所社支部において午前一〇時に開かれた口頭弁論期日に出頭するためには前認定のように午前六時頃自宅を出発しなければならないものであるから、相手方が右期日に出頭するために社附近に宿泊した事実のないことの疎明がない本件の場合、相手方は右宿泊をなしたものと推定され、その宿泊料は訴訟遂行上必要な費用として訴訟費用額確定に際し、右額中に計上することができる。即ち、本件の場合について云えば、昭和三一年三月一四日、同年五月一〇日及び一二月二五日の三回の口頭弁論期日はいづれも午前一〇時に開かれていて、同期日に出頭するために相手方が費した宿泊料は訴訟費用額として計上するが相当であつて、これを非難する抗告人の主張は採用できない。

しかしながら、前認定のように昭和三二年度に開かれた八回の期日はいづれも神戸地方裁判所社支部において午後一時に開かれたものであつて、右期日には相手方は抗告人主張のように日帰りで出頭できるものと認めるが相当である。もつとも、昭和三二年三月一四日、同年七月四日、同年九月二四日及び同年一〇月三一日の四回の期日には証人、本人等の訊問も行われているけれども、右訊問に要した時間は訊問調書に徴しても著しく長時間であつたとは認め難く、相手方は右期日終了後その日のうちに相手方住所に容易に帰宅できると認められる。したがつて、これら期日には、仮りにその終了後相手方が社附近に宿泊しても、右宿泊は本件訴訟遂行上必要なものと認め難く、その宿泊料は訴訟費用額中に計上できない。そればかりでなく、本件第一審裁判所が昭和三二年二月一九日以後の口頭弁論期日をすべて午後一時と指定したのは、専ら相手方が右各期日に宿泊をするを要しないように便宜を計つたものと認められるから、相手方は右各期日終了後宿泊することなく自宅に帰つたと推定され、右期日には相手方が宿泊料を支出した事実は認め難い。この点からも右期日の相手方の宿泊料は訴訟費用額に計上することはできない。この点についての抗告人の主張は正当としてこれを認容すべきものである。

そこで、本件訴訟費用額確定の計算書として、原決定添付の計算書に次の変更を加えた上、これをこゝに引用する。即ち右計算書中、昭和三二年二月一九日、同年三月一四日、同年四月二五日、同年六月四日、同年七月四日、同年八月二二日、同年九月二四日及び同年一〇月三一日欄の各宿泊料金七五〇円の記載を削除し、末尾の合計金五九、五一五円とある金額を金五三、五一五円と、内金一一、九〇三円(五分の一)申立人枝松の負担額とある金額を金一〇、七〇三円と、内金四七、六一二円(五分の四)被申立人南古の負担額とある金額を金四二、八一二円と各変更する。

よつて、民訴法第九二条但書を適用し主文のとおり決定する。

(裁判官 乾久治 長瀬清澄 安井章)

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